冷蔵倉庫の中に管理温度の違うもうひとつの空間を創出。間仕切りカーテンで実現したお客様に応じた徹底した温度管理。
写真左から、丸和運輸機関 沖森 大輔様、イノベックス 中根 章伍さん 温度管理の...
株式会社イノベックス
左から、イノベックス 福宮さん、愛管 鈴木 さん
静岡県浜松市を拠点に、配管・空調などの建設設備業を軸に多角的な事業展開を行う愛管株式会社様(以下、愛管)。地中熱源空調システム「サーチェス®」の導入により、脱炭素への取り組みと新規事業拡大を同時に実現しました。
持続可能な経営とビジネス拡大を両立させる戦略的な取り組みについて、愛管 グリーンビジネス推進室係長の鈴木潤一郎様と、システム開発・提供を担当した株式会社イノベックス 福宮健司さんに、お話を伺いました。
ーまず、愛管の事業内容について教えてください。
鈴木様
愛管は、管工事業を中核としながら、多角的な事業を展開している会社です。主だったところでは、給排水・衛生設備・空調設備の施工といった管工事業、それから社内保育園の運営、レストラン事業、さらに農園事業やグランピング事業なども手がけています。
最近では、3Dスキャン・図面化ソリューション事業として、古い建物の増改築で図面がない場合の測量サービスや、スマート農業として空き空間を利用した室内植物栽培システムの販売なども行っています。
私自身は開発事業部のグリーンビジネス推進室に所属しており、農業関係の設備や資材を販売していく部署で業務に携わっています。
鈴木 潤一郎 さん/愛管株式会社 グリーンビジネス推進室 係長
ー御社の事業は多岐にわたっていますね。今回の地中熱源空調システム導入のきっかけを教えてください。
鈴木様
実は、もともと管材倉庫として使用していた場所が台風でビニールが損傷してしまったんです。農業事業には今後も力を入れていきたいと考えていたため、この機会にハウス化して室内栽培にチャレンジしようと決めました。
これまでは露地栽培のみでしたが、ハウスを作って室内でも何か育てられるものがないかと考えていました。ただ、冬場はかなり気温が低くなったり、寒暖差が激しいので、何らかの加温システムが必要だったんです。
ー地中熱源空調システムを選択されるまでの経緯を詳しく教えてください。
鈴木様
実は、最初から地中熱ありきではありませんでした。浜松市の補助金を利用して、太陽光発電と園芸農業を組み合わせた新事業を計画していたんです。当初は太陽熱温水器を採用しようと考えていたのですが、検討を進める中で大きな課題が浮上しました。
太陽熱温水器の場合、冬場の加温には対応できるのですが、夏の冷房対応が難しいんです。近年の酷暑を考えると、夏の対応も絶対に必要だと判断しました。
ーそこから地中熱源空調システム との出会いはどのような経緯でしたか?
鈴木様
農業分野で地中熱源空調システムを提供している会社を探していたところ、あるヒートポンプメーカーに行き当たって話をしたのですが、農業分野は専門外ということで、またしても暗雲が立ち込めました。
そのような状況の中、ハウス製作を依頼していた会社から「農業分野の地中熱源空調システムならこちらの会社が対応できるかもしれません」ということで、イノベックスの福宮さんを紹介していただいたんです。
福宮さん
ハウス製作会社様からご紹介いただいた時点で、愛管様が求めていらっしゃる要件を伺いました。太陽熱温水器では対応できない冷房機能、そして浜松市の補助金予算内での実現、さらには今後のビジネス展開まで含めた総合的なソリューションが必要でした。
当該ヒートポンプメーカーの製品も含めて、農業分野における地中熱源空調システムの活用について検討した結果、私たちの「ヒートクラスター方式」が最も愛管様の要件に適合していることが分かりました。
福宮健司さん/株式会社イノベックス執行役員 ジオサーマルトランスフォメーション事業部長
鈴木様
導入を決定した大きな理由として、やはり脱炭素への取り組みが根底にあります。現在の社会情勢で脱炭素が重要な課題となっており、会社として生物多様性の取り組みや「自然共生サイト」なども始めています。環境負荷の低減に注力していることが前提として、地球環境に優しい商材の提案ができるのではないかと考えていました。
その上で、イノベックスさんのサーチェス®なら、やりたいことが叶えられるし、補助金の予算の中にも収められる。そして何より、地中熱と施設、園芸、農業を組み合わせた新事業を浜松を中心に展開していくというビジネスチャンスも見えました。
福宮さん
愛管様の場合、単に農業設備の導入だけでなく、既存の管工事業との技術的な親和性も高い点が特徴的でした。地中熱源空調システムには配管技術が重要で、愛管様がお持ちの管工事の技術が活かせるんです。
また、農業ビジネスへの参入を検討している企業様に実証モデルとして見ていただくことで、ハード販売につなげていくという将来構想も魅力的でした。さらに、生産から加工、販売まで一貫した事業展開を目指す農業事業者を支援していくという、愛管様ならではの総合的なサポート体制にも可能性を感じました。
ー従来の農業ハウスの空調と比べて、どのような点が決め手となりましたか?
鈴木様
最大の魅力は、暖房も冷房も両方効くという点に加えて、脱炭素につながる環境負荷の低い空調システムであることです。通常であればガスの加温器などが多いと思いますが、サーチェス®の場合は冷暖房両方が効く上に、環境への配慮も実現できます。
特にここ数年の酷暑、地球温暖化の影響が非常に大きい中で、ハウス内を冷やすことができるというのはすごくセールスポイントでした。冷暖房が両方効く施設ってなかなかないと思うので、魅力的なシステムだったと感じています。
今回新たに新設された農業ハウス
ー御社の管工事技術とサーチェス®の組み合わせについて、具体的にどのような効果がありましたか?
鈴木様
今回モデルケースとしてサーチェス®を導入後、実際にお客さんに視察に来ていただいているんですが、具体的にシステムをお見せして、配管や空調など自社で施工している部分もご説明しています。
これまでやっぱり管工事の会社だから、水道関係のものだけしかやってないのだろうと思われるお客様が多かったんですが、他のものもできるというところが説明でき、今回のサーチェス® がフックになって、他の仕事のお話をいただくことが実際にあります。
ー具体的には、どのような技術を活用されていますか?
鈴木様
今回の配管工事では、パイプのつなぎ方として、接着剤でつなぐパターンと継手で締め込んでつなぐパターン、そして井戸から引いている青いパイプは「融着」という技術を使っています。これはねじ込みでも接着でもない配管技術で、現在の上水道で使われている技術と同じものであり、かつ耐震管も同じものを使っています。
最近、水道管が破裂して水が吹き上がっている事故をニュースで見かけることがありますが、そういった事故にも対応できる耐久力の非常に高い水道管を使用しています。
こうした配管技術を地中熱源空調システムと組み合わせることで、より安全で長持ちする設備を構築できています。
愛管様の技術が活用された配管
ー導入の際に課題はありましたか?
鈴木様
予測できていなかった課題として騒音問題がありました。都市型農業の場合は当然起きることだと思うんですが、道路を挟んで裏に民家がありまして、夜でも当然温めたり、冷やしたりすると、ファンが回って音が出てしまって、近隣にお住まいの方からお叱りをいただいたことがありました。
ーその騒音問題にはどのように対処されましたか?
鈴木様
当初、ファンの回転数を無段階で強弱つけられるようにした方が使い勝手がいいということだったんですが、コストの面もあるし最初はなしでやってみるという判断のもと、常にフル回転にしていました。それで動作音が原因となっていたんです。
それで回転数を変えるためにインバーター(※モーターの回転数を制御する装置)を取り付けました。これをつけることで、空気はちゃんと送ってるんだけども回転数を抑えて適切なバランスを任意に調整できるようになったんですね。
それを後付けしたことで、ほとんど音は感じられなくなって、クレームも出なくなりました。
福宮さん
この騒音対策については、愛管様と一緒に課題解決に取り組むことができました。都市型農業を実施する際に発生しうる問題について、お客様と相談しながら適切な解決方法を見つけることができたのは、非常に有意義だったと考えています。
ー現在、どのような作物を栽培されていますか?
鈴木様
現在は少量多品種での栽培を行っており、いちご、レタス、ブルーベリーなど様々な作物を育てています。限られたスペースを有効活用するため、いちごとレタスについては二段構造での栽培にも挑戦しています。
室内と露地でブルーベリーもやっているのですが、ハウスの方が一足早い段階でブルーベリーができているんですね。そうすると市場に出すときも、露地の旬よりちょっと早くて、少量でも付加価値があるので、高く売ることができます。
露地ものは同じものが同じ時期に出てくるので、それなりの値段になってしまいますが、ハウスで栽培することによって出荷時期を調整でき、高付加価値商品として販売することが可能になったと実感しています。
ー収穫物の品質はいかがですか?
鈴木様
個人的な感想ですが、ハウスもののブルーベリーを食べた時は本当に甘くて非常に美味しかったです。温度管理がしっかりできているからか、品質の高い作物ができていると感じています。
福宮さん
実際に愛管様で収穫された作物をいただく機会がありましたが、非常に品質が高く、味も格別でした。温度管理が安定していることで、作物本来の味が引き出されているのを実感します。
ハウス内での多品種栽培の様子
ー視察などの反響はいかがですか?
鈴木様
この前は全く異なる業種の方で、家畜の糞尿を使った発電システムのプラントの設計をされている方が、どんなものがあるのか見に来られました。その他にも地元の議員様なども弊社の取り組みを視察していただいたりしています。
メディアの方でも何度か取り上げていただいた影響で、テレビをご覧になった方が見学にいらっしゃることも多いです。
カタログだけ持ってこのシステムいいんですよ、と言うだけじゃなくて、「実際に見に来てください」と言えるので、うちの強みとしては非常に大きいです。本当だね、冷えてるね、暖かいねと、実際に体感していただくことで、カタログだけだと伝わらないものがあると思います。
福宮さん
実際に導入事例を見ていただけるというのは、地中熱源空調システムの普及にとって非常に重要です。愛管様の場合、自社で技術を理解し、運用されているので、説得力のある説明をしていただけるのが大きな価値だと思います。
ハウス内に設置されているヒートポンプ
ー環境負荷軽減の効果測定はいかがですか?
鈴木様
現在、使用電力量やCO2排出量を月々の電気量から算出できるシステムを導入しており、導入後のデータ収集を行っています。従来の一般的な空調設備との比較検証を通じて、この規模のシステムでどの程度の環境負荷軽減効果があるかを定量的に示していけるよう、データの蓄積を進めているところです。
こうした具体的な数値は、今後お客様に提案する際の重要な根拠になると考えています。
ー今後の事業展開について教えてください。
鈴木様
福宮さんともお話をさせていただいているんですが、今後ますますイノベックスさんとの連携強化を図っていきたいです。
今回導入したハウスとイノベックスさんの袋井工場が、それぞれ地中熱源空調システムのモデル施設として機能しており、どちらも車で1時間程度の距離にあります。このように自社で導入施設を持っていることは大きな強みだと考えています。
地中熱と施設園芸農業を組み合わせた新事業を浜松を中心に展開していく構想があります。農業ビジネスへの参入を検討している企業様に実証モデルとして見ていただき、システムの導入提案につなげていきたいと考えています。
このような取り組みを通じて、地中熱源空調システムの普及促進に貢献していきたいと思います。
多角的な事業展開を行う当社の特徴を活かし、様々な事業分野での知見と地中熱源空調システムを組み合わせることで、お客様に最適なソリューションを提供できるのが強みです。
福宮さん
愛管様との設計部分での連携を現在図っている最中です。単なる設備販売ではなく、愛管様の既存事業との組み合わせを含めた総合的なソリューション提案ができるのが大きな特徴です。
ー対象エリアはどの辺りを想定されていますか?
鈴木様
自分たちの会社が静岡県内に満遍なく営業所を構えていますので、まずは地元の静岡県のエリアを重点的に取り組んでいきたいと思います。
また、西の愛知県方面でも実際に業務を行うことがあり、愛知県は農業が非常に盛んな地域でもあるため、そうした地域への展開も検討しています。
地中熱システムの提案に加えて、当社が持つ様々な事業のノウハウを活かし、生産から加工、販売まで一貫した事業展開を目指す農業事業者の支援にも力を入れていきたいと考えています。
ー導入後のメンテナンスやサポート体制はいかがですか?
鈴木様
基本的な操作方法や維持管理に関しては、福宮さんに逐次お話を伺っています。ヒートポンプの基板の故障が数回あったのですが、その際はメーカーの方に来ていただき、迅速に対応していただきました。いつもレスポンスも早くて安心できますし、非常に助かっています。
福宮さんをはじめ、ヒートポンプのメーカーの方も非常に協力的ですぐ対応していただけるので、そういった点がやっぱりすごくありがたいです。
福宮さん
愛管様の取り組みは、地中熱源空調システムの可能性を示す優良事例だと考えています。単なる設備導入ではなく、既存事業との融合により新たな価値を創造し、地域の脱炭素化推進にも貢献されています。
今後も技術サポートはもちろん、代理店展開に向けた協力体制を整えて、一緒に地中熱源空調システムの普及に取り組んでいきたいと思います。
鈴木様
まずは弊社にお越し下さい。実際に目で見て肌で感じていただきたいです。
地中熱源空調システムの導入は、単なる省エネ対策ではなく、事業の可能性を広げる戦略的な投資のひとつとして非常に有効であると実感しています。
持続可能な経営と事業拡大を両立したいとお考えの企業の皆様に、ぜひ一度体験していただきたいシステムです。
福宮さん
愛管様との取り組みを通じて、地中熱源空調システムが単なる設備ではなく、お客様のビジネス戦略の一部として機能することを実感しています。
今後もより多くの企業様に、地中熱の可能性を実感していただけるよう、技術開発とサポート体制の充実に努めてまいります。
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